077039 ランダム
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Lee-Byung-hun addicted

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第4話

『Night and Day』 scene 4 

迎えに来た智の車の助手席に座った揺はことの次第を智から説明されていた。
「じゃあ、私は彼への秘密のご褒美としてこれからこっそり彼の部屋に運び込まれるわけ?」
「そういうことです。」
智は嬉しそうに言った。
「そろそろ打ち上げの一次会が終わる頃だと思うのでちょうどいいと。ヒョンは一次会で引き上げさせて部屋に誘導しますから。ワンモ理事がご褒美は一番喜ぶものがいいだろうって言うから満場一致で揺さんに決定したんです。」
「何だか恥ずかしいな。」
揺は照れながら言った。
そうこうしているうちに車はホテルに着いた。
智の用意した大きなコートを頭からかぶって車から降りる。
「何か余計目立ってない?」
不安がる揺に
智は「最高に面白くなりそうだ」と嬉しそうにつぶやいただけで全く取り合わなかった。
「全然聞いてないわ。」
諦めた揺はなるべく目立たないように普通にしながら彼の部屋に急いだ。
「ヒョンには預かった荷物を入れておくっていって鍵借りときましたから。」
そういいながら智は自慢げに鍵を開けた。
「・・でここで待っていればいいわけ?」と揺。
「あ、そうそう。小道具用意しておきました。これ。」
「何?これ。」
「えっ、プレゼントといえば赤いリボンでしょ。それからヒョンの好きな赤ワインもご用意しました。」
満足げな智。
「え、これつけるの?」
「もちろん。お願いします。」
と嬉しそうな智。
「了解です。」
揺は仕方なくそう答えた。
30過ぎてこんなリボンを身体に巻いて『はいっ!私をプレゼント!』なんて恥ずかしいことできるわけが無い。
「じゃ、揺さん素敵な夜を」
智はそういいながら手を振ってドアから消えた。
「全く最近みんな悪乗りしすぎよね。」
そういいながら揺は智に渡された真っ赤なリボンを手に取り自分の胸に巻いてみた。
夜景が綺麗に写った窓ガラスにその派手な姿が映し出される。
「やっぱり有り得ない・・・・」
揺はリボンを投げソファに座った。
揺は正直ここへ来るべきだったのか思い悩んでいた。
彼に会いたい気持ちは山々だったがあまりにもイベントの感動が大きすぎていつもの気持ちで彼を迎えられる自信が正直なかった。
彼に会ったら私はどうなるんだろう。
それに・・・今の彼は私を必要としているだろうか・・・きっと彼もまだあの感動から抜け出せずにいるに違いない。
大きな赤いリボンを見つめながら思う。
(スタッフ皆の彼への労いの気持ちを私が代弁できるのならそれが私の使命なのかもね。よし、バイトですから、気持ち切り替えて。じゃあ、どうやって彼を迎えようかな・・と)
しばらく考えたのち彼女はおもむろにリボンとワインを手にするとバスルームに消えた。

「ヒョン、今日はもうお開きにしましょうよ。ほら疲れてるでしょ。」
「何言ってんだよ。バカ。こんなに気分のいい日がありますかって。今日は最高の気分なんだ。こんな日にすぐに寝られるかっ!ほら、俺の部屋で飲みなおそう。」
「えっ!」
「何?」
「何でもありません。・・・・・」
「理事どうします?」
智がワンモ理事に小声で話しかけた。
「どうしますって言ったってあいつ言い出すと聞かないし・・・」
「はいっ!スンフン先輩飲みましょうね~」
ビョンホンは気づくことなくみんなを誘って歩いている。
「あ~あ。完全に出来上がってる上に上機嫌だし。ありゃだめだ。」
「だめだって揺さんどうするんですか。」慌てる智。
「もう、いいよ。後は揺ちゃんに任せて適当に・・・」
「ホントですかぁ~」

結局ビョンホンはスタッフを5人ほど連れて部屋に戻ってきた。
鍵を開ける音がした。
「あ、帰ってきた。」
揺はあらぬ格好でバスルームから顔を出しかけた。
すると彼がどうも一人でないことを音から悟った。
「うそ。どうするのよ」
慌てる揺。
とりあえずシャワーカーテンを引いてバスタブの中にしゃがみこんだ。息を潜める。
「あれ、バスルーム電気つけっぱなしじゃん。」
用を足そうと入ってきたスタッフはそういうとさっさと用を済ませ電気を消して出て行った。
(何でバスとトイレが外国は一緒なのよ・・・いったい何人がしにくるのぉ・・)
揺はバスタブの中で赤いリボンに包まれたままワインのボトルを抱えて呆然としていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。部屋から『約束』の歌声が聞こえてきた。
「あのひときっとよほど嬉しいのね。また歌ってる・・・でも本当に良かった。イベントが大成功で。」
疲れていた揺はビョンホンの歌声を聞きながらいつしかすっかり眠ってしまった。


「じゃ、ビョンホンお休み」
「はい、今日は本当にありがとうございました。お休みなさい」
そういって皆を送り終えたビョンホンはガラス窓に写る自分の姿を眺めていた。
数時間前のイベントが嘘のように今は一人静寂に包まれている。
空はもう白み始めていた。
彼はドームで多くのファンの愛情をヒシヒシと感じていた。
そして自分の想いが多少なりともファンに伝わったに違いないという確かな手ごたえを同時に感じていた。
「あとは映画に全力投球だな。」
そうつぶやくと服を脱ぎながらシャワールームに向かった。
電気をつけた。そういえばなんでシャワーカーテンが閉まってるのか・・・
ちょっと不思議に思いながらも何の気なしに彼はカーテンを開けた。
「・・・・・」
そこにはバスタブにすっぽり嵌ったままちょっと不似合いな巨大なリボンを身にまといワインを抱え熟睡した揺がいた。
あまりの驚きと愛おしさビョンホンは起こすこともせずにしばらく彼女を眺めていた。
一体何時間彼女はここでこうして黙って待っていたんだろう。
もちろん、鍵やスケジュールのことを考えると多くのスタッフによって計画されたことは明らかだった。
「揺、すまない」
ビョンホンは彼女の寝顔を見ながらつぶやいた。
ここ数日、イベントのことで全く余裕がなかった。
揺の存在を忘れていることさえ忘れているありさまだった。
仕事に夢中になると自分の中に彼女の居場所すら作れなくなる自分を目の当たりにしビョンホンは正直困惑していた。
これじゃ今まで失敗を繰り返した恋と何も違わない。
こうして自分が仕事に夢中になると恋人は自分から離れていった。
今度も同じことを繰り返すのだろうか。
たとえ相手が揺だったとしても。
確かにこの二日間夜仕事を終え思い出すのは彼女のことだった。
だから電話もしたしひと目会いたいと彼女の家にも行った。
でも、やはり頭の中は仕事のことでいっぱいでこの半年とは勝手が違った。
揺はこれで幸せなのだろうか。
電話を切るときまたねと言わずお休みという俺。
帰り際にキスをすることさえ忘れている俺。
きっとこの先こんなことがずっと続くのだろう。
俺は揺に何をしてやれるのか・・・・。
揺の寝顔を見ながら彼はそんな想いを巡らしていた。
こんなに愛おしいのに・・・切なくて・・キスさえ出来ない。
今の彼は彼女を愛するすべさえ忘れかけていた。
起こしたら彼女をどんな顔で迎えようか。
そう。
きっと彼女はいつも通りに笑う。
そしたらいつも通りに笑って答えよう。
胸に飛び込んできたら抱きしめて、キスをしてくれたらキスを返せばいい。
抱いてくれと言われたら・・・今日の今の気持ちで彼女を愛することが出来るのか。
まだ心はドームに行ったままで彼女の元まで帰って来てはいなかった・・・。もし言われたら・・。
そんなことを考えながらビョンホンは他に彼女を起こす方法を見つけられず
仕方なく揺の鼻をそっとつまんでみた。
息苦しそうに顔をしかめる揺。
薄目を開けた瞬間彼女は飛び起きバスタブにひじをぶつけた。
「痛い~~~~」

「普通さぁ、長いこと待ちぼうけ食わせて寝ちゃった恋人を起こすときってキスして起こしたりしない?少なくとも鼻はつままないと思うんだけど。」
揺はひじをさすってバスタブをまたぎながら言った。
「そうかな。それを言ったらさぁ~その格好は無いんじゃない?こっちが恥ずかしいよ。」
ビョンホンは揺のあられもない姿を見て苦笑しながら言った。
「私もね。これは有り得ないと思ったんだけど、何だか感性が麻痺してるみたいでね。楽しければお祝いだからなんでも良いような気がしちゃってつい悪乗りしちゃったわ。」
揺は笑いながらそういうとリビングに出てきてくるっと一回転した。
「今日はお疲れ様。素晴らしいイベントだったわ。感動した。これはスタッフの皆さんからのプレゼントです。どうぞお受け取りください。」
揺はかしこまったようにそういうとビョンホンの胸に飛び込んだ。
「何だかやけに派手なプレゼントだけど最高に嬉しいよ。」
そういいながらビョンホンは揺をぎゅっと抱きしめた。
「あのね。」
「ん?」
「恥ずかしいからさ。早くこれ取りたいんだよね。あ、ちょっと待って」
揺はそういうとソファの横に脱ぎ捨ててあったビョンホンのチェックのシャツを手早く取って羽織ると後ろを向いてリボンをはずした。
そして足元のリボンを拾い上げ思いついたようにビョンホンのアタマにくくりつけた。
「お前、何やってるの?」
されるがままになりながらビョンホンが訊ねた。
「いや、こうやって今日出てくれば良かったのに。『僕をプレゼントします』ってきっと皆喜んでくれたわよ~。可愛い~」
揺はおもしろがって大笑いした。
「僕をプレゼントします」
ビョンホンは自分でもどうしていいのかわからずに揺のふざけて言った言葉をおうむ返しした。それで揺が喜んでくれるのならば今夜はそうしよう。
「へ?」
「だから、僕をプレゼントします。」
「何で?」
「何でって・・・。嬉しくないの?」
「いや、嬉しいけど。でも、今日はこれ以上もらったらばちが当たりそうだから遠慮しとこうかな。」
揺から返ってきたのは意外な答えだった。
でも、よく考えると彼女らしい気もした。
そしてプレゼントをもらえないと思っている点では今のビョンホンの気持ちと同じだった。
そして彼女がそう答えたことに少しほっとしている自分に彼は驚いていた。
「・・・・揺もそう思ったんだ。」
「ん?」
「実は僕もね。揺をプレゼントされて嬉しかったんだけど。でも、今日はファンの皆からたくさんのプレゼントをもらった気がしてこれ以上ご褒美をもらったらばちが当たりそうな気がして。ちょっと遠慮しちゃった。」
「何だ。私たちって本当に欲がないわね。」
「ああ。ホントだ。」
「じゃあ、せめて乾杯しようか。智君ワインくれたから。」
「ああ。でもこれあんまりいいワインじゃないな。あいつはまだまだだなぁ~。でも折角だからいただくか」
「そう、きっと二人で飲めばどんなワインも1900万ウォンレベルの味になるかもよ。」
「うん。じゃ、グラス持ってきて」
ビョンホンは嬉しそうに言った。
「じゃ、何に乾杯しようか」と揺。
「今日のイベントの成功と・・・」
「あなたの素晴らしいたくさんのファンに・・・かな」
「揺。」
ビョンホンは自分の『ここにない』想いを揺が理解してくれているような気がしてさっきまでの彼女への想いが少しだけ軽くなったように感じた。
「ごめん。私そのファンの中に入ってるから。」
揺はそういうとペロッと下を出した。
「じゃ、乾杯」
二人はグラスを重ねた。
「じゃ、今日はイベント反省会ね。私今日一日マーケットリサーチしてきたから報告してあげるわ。」
揺は明るくそういうと今日会ったたくさんのファンの話をし始めた。
パンフレットを譲ってもらったこと。
好みのタイプじゃないのにもう夢中なのと語る人のこと。
白夜のギョンビンが一番好きだという人。
彼の影響で『ボンヌフの恋人』を観て感動したと話す人ファン。
ビョンホンも好きだけどレスリーチャンやトニーレオンも好きだと語る人々のこと。
皆が彼との距離を感じることなく楽しんでいたということ・・・・。
そしてみんな満足して幸せな気分で帰っていったこと。
「そういえば写真集いつの間に撮影してたの?私がパリに呼び出したころすっごい忙しかったんじゃない?大丈夫だったの?」
「大丈夫だから出来上がったんだよ。まあ、そのへんは適当にしたさ」
ビョンホンは自慢げに言った。
「でも、なかなか良さそうな出来栄えじゃない。早速予約しなきゃ。」
「好きなだけやるよ。買わなくていいじゃん。」
「また、そんなこと言って。自腹を切って買うことに意義があるのよ。わかってないわね。」
揺は笑って言った。
「しかし、本当にいろんな人がいてその人たちみんな貴方のことが大好きなの。42000人もよ。恋敵だと思ったらとても太刀打ちできないわね。」
「じゃあ、どうするの?」
「正直今夜はわからないわ。私も42000人の一人だから。」
「ふ~ん」
ビョンホンは明るくファンの話をする揺を見つめていた。
そしてそこに希望を見つけた気がしていた。
彼女の考え方は明らかに今まで付き合った女性と違っていたから。
彼女となら新しい一緒に生きる形が見つけられるかも知れない。

そしてその後も、二人は5月3日に出会った人のこと感じたこと思ったことをお互いに話し続けた。
とっても不思議な夜だった。
抱き合い触れ合って愛し合うことがなくても二人はそれぞれとても幸せでとても満ち足りたように感じていた。
二人の間にはまた新たな関係が芽生えつつあった。
同じ感動を共有し同じものを大切に思える同志のような感覚。
この日二人は知らず知らずのうちに新しい一歩を踏み出していたかに思えた。ただ、ビョンホンの心の中には揺を思いやれないことへの自分への苛立ちがくすぶり彼は彼女を愛することに臆病になりかけていた。



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